宝塚音楽学校96期裁判の記録(全まとめ) 事件の検証

2-1. 失くなったものは誰が盗んだのか?

入寮後すぐに、いろいろなものがなくなりました。現金、デジカメといった高価なものから、食料品といったちょっとしたものまで。学校は、平成20年5月28日に、生徒に被害届(警察に出すものではなく、学校が把握するためだけのもの)を提出させており、それらが裁判にも提出されているので、これを整理してみましょう。

被害届を表にしてみました。→補足A.被害届一覧

<犯人はプロ!?>
現金が多いことが目につきます。しかも、財布から現金を盗るなど、高等技術です。じつは、予科生全員にアリバイがある日があります。例えば、ガイダンスは予科生全員が学校にいて、寮にはいません。つまり、予科生ではない人物が盗んだということです。(まさか同じ建物に住んでいる本科生!? それとも寮監!?? そんな馬鹿な)保険証まで盗られています。プロの仕業の可能性が高いのではないでしょうか。

そのうえ、部屋が荒らされていることもありました。若い女性ばかりの寮に盗人がしょっちゅう出入りしているなんて、考えただけでぞっとします。生徒たちが疑心暗鬼になるのも当たり前です。

<学校は放置>
それなのに、なんと、学校は荒らされた現場の写真を撮っただけなのです。防犯カメラは夏休みにつけたそうですが、最初に部屋が荒らされてから、何ヶ月も経っています。なぜ警察に相談しないのでしょうか。世間の目を恐れたのでしょうか。世間の目を恐れてちゃんと調査しなかったがためにこじらせて最悪の結果を招くという、音楽学校の体質がここにもあらわれています。

生徒も、当初は学校に相談しようと思っていません。寮のことは生徒だけで行うものだと思い込んでいるのです。自治という美名が、自分たちを追い詰めていると気付いていません。→ポイント解説 5.自治というと聞こえはいいけれど

じつは、6月15日の大捜索以降、原告が監視されるようになってからも、また、防犯カメラを設置したあとも、盗難は続いています。音楽学校がそう認めています。「監視カメラを寮の廊下等に設置し(中略)それ以降、現金被害はほとんどなくなった」(H21.1.19退学処分の理由)…ほとんどって、つまり皆無にはなっていないということです! 原告の母親のメモにも、Qが1万円を盗まれた話が記載されています。10月のことです。犯人は防犯カメラをくぐりぬけるほどのプロなのでしょうか。

<誰も目撃していない>
そもそも、これらの盗難はいずれも、目撃者がいません。こんなに盗難が起きているのに、です。裁判所もこう述べています。「寮生が犯人と顔を合わせたり、窃盗の現場が目撃される可能性は相当に高いと窺われるにもかかわらず、相手方が窃盗を働いている現場を目撃したとの主張はない」(大阪高等裁判所決定H21.7.2)。

ましてや、6月15日の大捜索以降は、原告に対する同期生による監視が行われていたのですから、原告が盗んだ現場が目撃されないのは不自然です。「寮内では原告の日常の動向について注意が払われていたと考えられる。にもかかわらず、原告による窃取行為が現認されたことについての疎明はない。」(神戸地裁決定H21.3.31)と裁判所も突っ込んでいます。

「これだけ大量の盗難品があるのに、原告が他の生徒の部屋の前をうろついた等という疑わしい行動と見たという証言は一つもない。まだ高校生程度の生徒達なので、罪を着せるのに、物が出てきたということ以上のことが思いつかなかったと思われる。」(原告側準備書面(1)H20.12.22)確かにそう考えるとかわいいものですが、だからこそ学校は正しく対応すべきでした。

防犯カメラを設置して、その映像の分析はきちんとなされたのでしょうか。原告が盗んでいる場面が映ればそれ見たことかと証拠としてあげてくるはず。つまり、そのような映像は映っていない、ということです。そもそも、防犯カメラは形だけということなのかもしれません。(設置もしていない可能性も考えられます)

また、盗難品は、6月15日の大捜索で原告の部屋から出て来たものとすべてが一致するわけでもありません。(→補足B.物品区分け)むしろ、原告の部屋からもどこからも出て来なかったもの(つまり、失くなったままのもの)が多数あります。それらは一体、誰が盗んだのでしょう。

(→原告の部屋で見つかったものが仕込まれていた可能性については事件の詳細 2-2.6月15日の大捜索へ)

<単なる紛失物、忘れ物も>
また、一方で、単になくしただけのものもあると思われます。食券は学校の中でしか価値がなく、換金できないものですから、プロの仕業とは考えられません。また、生徒だとすると、一日に使える量は限られているのだから、何十枚も盗む理由がありません。単なる紛失でしょう。

そのほか、誰かの部屋に置いてきてしまった「忘れ物」や、間違えて食べてしまったというものもあるでしょう。特に、生徒たちは互いの部屋を行ったり来たりしていて、いろいろなものを持ち寄って、ベッドの上で雑魚寝してお菓子を食べたりする生活でした。6月15日に「発見」されたものには、上記以外にも、化粧水、汗ふきシート、髪ゴム、封筒などがあります。他人の使いさしの生活用品など、盗んでも何もいいことはありません。(だからこそ、「原告は精神病だ」という設定が必要だったのです)

裁判所もこう言っています。「自己の寮室外に持ち出す機会が比較的多く、そして遺失する機会もまた多いと考えられる。」(H21.3.31神戸地裁決定)

そもそも、学校が盗難と最初からきちんと向かい合って警察を呼び、犯人を捕まえることができていたら、生徒たちの疑心暗鬼もなかったでしょう。そして、忘れ物と盗品を区別して考えることができたでしょう。それをしないから、疑われる生徒も出て来るし、そこに乗じて、悪意をもって誰かを陥れることができたわけです。

2-2.6月15日の大捜索 へ

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