宝塚音楽学校96期裁判の記録(全まとめ) 事件の検証

8-1. 劇場で財布を拾った

<経緯と情状酌量>
原告は、平成20年10月12日に大劇場で宙組公演を観劇した後、劇場ロビーのすみのトイレ前(現在のチケットカウンター、事件当時は土産物屋の近く)で財布を拾いました(図の印)。予科生は、この近くの入り口(旧チケットカウンターの横)を利用するルールなのだそうです。

すぐに中身を確認しましたが、現金はありませんでした。「拾って手に取った瞬間に委員に報告しなければいけないことや、この行為を同期に観られているかもしれないという思いから、2,3メートル前方にあるトイレに入りました。直接渡す手掛かりはないだろうかと思い財布の中を見ました。」(原告陳述書H21.3.31)「拾ってすぐ、交番に届けなければと思ったんですけれども、まず委員に報告しなければいけないと思い、寮室に持ち帰りました。」(原告証言)「そのまま交番に届けようと思いましたが、予科服姿でしたので、この格好で警察に行くと学校に迷惑がかかるかもしれないし、今の私だと拾ったことを信じてもらえないかもしれないと思い、寮に持ち帰ってしまいました。同期や学校に相談しても信じてもらえないと思い、どうしたらいいかわからないまま机の上に置きっぱなしにしていました。11月に親が来る予定があったので、その時に親に届けてもらおうとも思っていました。その間も同期からのいじめが続いていて、この財布のことは忘れていました。」(原告陳述書H20.12.22)インフォメーションの場所は知らなかったそうです(原告証言による)。

ところが、10月20日に携帯電話の「捜索」があった際に、財布を同期に発見されてしまいます。「劇場で生徒が立ち寄ってはいけないとされている劇場のショップのレシートが出てきたとして詰問されたので、劇場で拾ったものだと話しました。」(原告陳述書H20.12.22)財布の中身をじろじろと、しかもレシートまで詳細に見るとは、恐ろしい「捜索」です。

もちろん、人の財布をずっと持っていることはいけないことです。 しかし、届け出ることができなかった理由もわかります。裁判所も、「原告とその他同期生との関係が相当悪化していたことを一応認めることが出来る」「懲戒の対象となるとしても、他の処分を差し置いて退学処分に結びつけるのは些か酷である」と情状酌量しています。

<放置→窃盗>
さて、この財布、当初は「拾ったのに届けずに持っていた」ことが、問題とされていました。11月8日の強制送還で読み上げられた退学理由には、財布については「9日間にわたり放置し、(略)極めて不適切」とあります。しかし、その後になぜか音楽学校は「盗んだ」という主張に変えます。

音楽学校は原告の言い分も聞かず(強制送還させたまま)、12月の仮処分の審尋では「窃盗が推認される」と答え、裁判官から「推認では理由にならない」と言われると、「窃盗です」と答えました(原告代理人準備書面H20.12.29による)。裁判官も呆れたでしょうね。二度目の退学処分(H21.1.17)では退学通知に「違法な所持または窃取を行ったものと判断」と記載しています。

大体、財布を窃取したら、現金を抜き取って財布は捨てるのが通常の行動ですが、なぜ所持と窃取が「または」で両立するのでしょうか。

<同期が見ていた!?>
音楽学校が「窃取」の根拠としたのは、財布の持ち主が判明し、その人が「隣に予科生らしき人が座っていた」「財布には4万円入っていた」と言ったからでした。

委員を通じて10月21日に財布が学校に渡り、学校から警察に届けられ、警察はカードから連絡先を調べ、判明した財布の持ち主に10月22日に電話をしました。持ち主は、11月12日に警察に財布を取りに行き、そこで詳しい説明をしました。そこで、財布の持ち主の座っていた席や、「隣に予科生らしき人が座っていた」ということがわかりました。この内容が警察から学校に筒抜けだったようで、学校が動き出します。

11月14日(つまりもう原告は強制送還されている)に、委員を通じて「10月12日、予科生で誰が観劇していたか」を調査します。その結果委員が呈示してきた生徒のうち、原告をのぞく3人(U、DD、L)に聞き取り調査をしました。「学校が予科生全員に対して、10月12日11時の宝塚大劇場公演を観劇した者を確認したところ、原告の他に3人の予科生が観劇しており、その3名は2階S席の後方上手センター寄りに3人揃って座っていたと説明しています。また3名は、原告は2階A席下手の通路の後ろに座っていたとそろって説明しています。ほかに、その付近には予科生は座っていなかったと説明しています。」(財布取得案件に関する予科生(96期生)観劇者の調査報告署 H21.1.22 樫原事務長)。(ちなみに3人の生徒の席は、半券などが提出されたわけではなく、自己申告です。)

財布の持ち主が座っていた席は、2階8列6番(A席下手、すぐ前がS席との境の通路で、1番から10番までで一つのブロック)です。音楽学校は、原告も2階A席下手に座っていたと主張。つまり、財布の持ち主の隣に原告が座っていて、かばんから財布を盗んだ(その後、4万円を抜き去って、財布は部屋に放置していた)、と言いたいのです。

<聞き取り調査は誘導>
しかし、原告の主張はこうです。「私はその日、劇場内の階段や出口などで、予科生10名くらいと会いました。宙組「パラダイスプリンス」の公演が始まって初めての日曜ということで、生徒がたくさんいました。2階席には私の他に3人ではなくもっと沢山いたと記憶しています」「私は当日にチケットを買ったので座席は後ろのほうでした、B席だったかもしれません。もちろんすぐ前に通路ではなく、私の座った右隣が通路だったことを覚えています。」(H21.1.14)通路の位置からして、8列でも6番でもないという主張です(観劇時からかなり時間が経っているので、当然、半券は残っていません)。記録には、原告が位置を示した図があり、2階A〜B席の下手ブロックのセンター寄りに○がついています。まあ、2階S席上手にいた3人が見上げたら、方向的には同じで見間違えたのかもしれません。しかし、3人の主張はそのような「かもしれない」ではなく、「絶対に原告は財布の持ち主の隣の席にいた」なのです。

これにはまず、学校の調査が委員を通していることに問題があります。→ポイント解説 5. 自治というと聞こえはいいけれど

しかも、聞き取り調査は誘導でした。

「(原告代理人)事務長から、原告はいなかったか、この辺に座っていなかったかというふうに聞かれたので、そうだと思うと答えていませんか」
「(U)はい」

「(原告代理人)原告が、この辺に座っていなかったかと聞かれたわけですね」
「(L)はい」

誘導であったと認めています。
(ちなみにDDは同じ質問に「覚えていません」と返答)

大体、彼女ら、証言の前に陳述書をそれぞれ作成していますが、ほぼ同文です。「(U)弁護士の先生がまとめてくださいました」とのこと。弁護士が作成したものであることを認めています。陳述書の最後には、三人すべてに、とってつけたように「私たちは、平成20年10月12日の事情を聞かれたときも、財布の件と関連があることは全く知りませんでした。(中略)原告を間違いなく2階席で見たということ、その他には私たち以外には予科生は一人もいなかったということを単純にお答えしただけです。」(H22.3.10U、L、DD陳述書)と、真実なんですアピールが添えられています。

そもそも、11月14日に10月12日のことを聞かれて、他人の席までそんなにはっきり覚えているものでしょうか? 

「(原告代理人)今年に入ってから大劇場で観劇したことはありますか。」「(U)2回ほどあったと思います。」(中略)「(原告代理人)では1月(注:証言の2〜3ヶ月前)のとき、ほかに誰がいましたか。覚えていますか。」(中略)「(U)覚えていません。」…覚えてないのが普通でしょう。

「(原告代理人)大劇場で、原告とほかの機会に会ったことはありますか。」「(L)あると思いますが、はっきり覚えておりません。」(中略)「(原告代理人)ほかのときは覚えてなくて、なぜ10月12日だけ覚えているんですか。」「(L)1ヶ月後に何度も確認され、UさんとDDさんとも確認しあったので、よく覚えております。」それは、誘導されて思い込まされたときのことを覚えているだけでしょう。君たち、事務長と委員に思いっきり利用されてるって気づこうよ。

<警察との癒着>
なお、財布の持ち主に連絡したのは、警察の少年課です。普通は遺失物は会計課のはず。しかもわざわざ来校して。つまり、学校と警察が、常に連絡をとりあっているということです。タイミングから言って、コンビニのビデオの件を相談していた頃にあたります。(→ポイント解説 11.警察との癒着)。最初から、学校が、財布も「盗み」の線で警察に相談していたってことですよね? そのうえ「1週間以内に提出しなかったから罪になるかも」と言われたそうです(原告の母親のメモ)。そんな法律はありません。まるで脅しです。

この後、財布の持ち主の証言が音楽学校によってねじ曲げられたことにより、この問題はさらに大きくなります。

8-2. 音楽学校は財布の持ち主の証言を捏造 へ

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