宝塚音楽学校96期裁判の記録(全まとめ) ポイント解説

2. おおやけになったのは無策な音楽学校のせい

この裁判がおおやけになったのは、なぜでしょうか。「原告側のリーク」でしょうか? ちがいます。本訴に至ったからです。

<裁判はすべて公開である>
訴状が裁判所で受け付けられると、裁判所の事件簿に掲載されます。そのため、事件簿を毎日チェックしている司法記者に、音楽学校が訴えられていることを知られてしまいます。司法記者クラブには新聞だけでなくテレビ局も入っています。記者達は間もなく訴状を閲覧して詳細を知ることになります。

元生徒が音楽学校を訴えたという世間の耳目を集める裁判として、記者クラブ以外の週刊誌、芸能マスコミにもただちにニュースが伝わり、新聞やテレビニュースだけでなく、週刊誌まで賑わしたことはご存知の通りです。非公開で暫定的な権利を保全する仮処分手続との違いはそこにあり、訴状受付によって、リークも何も、自動的にオープンになってしまうのです。

<本訴に持ち込んだのは音楽学校>
ではなぜ本訴に至ったのか。それは、音楽学校が仮処分に従わなかったからです。もし仮処分命令に従うなり、裁判所の和解勧告で和解に至っていたなら、ここまでおおやけになることはなかったでしょう。なのに「仮処分の決定に従いたくないから、本訴で戦おうぜ! 訴えて来い!」という「起訴命令」を平成21年10月1日に起こしています。

起訴命令が下されると、一定の期限までに原告として本訴を起こさなければ仮処分命令は効力を失ってしまいます。そのため、原告は本訴に踏み切りました。仮処分命令が効力を失えば間接強制も失効し、音楽学校は授業日一日あたり1万円の支払いをしなくて済むことになりますが、まさか音楽学校は、原告が本訴に踏み切らず、仮処分命令が失効することに期待したのでしょうか。それとも、本訴になっておおやけになった場合の絶望的なリスクを想定しなかったのでしょうか。

音楽学校は「原告の主張は、被告が、築き上げてきた伝統と信頼を破壊し、被告の関係者にも重大な悪影響を与えたのであって、断じて許すことはできない。」(本訴での答弁書H21.12.10)と、本訴をしたことを原告に責任転嫁していますが、これは経営陣だけではなく、法律専門家や法務スタッフの無策の表明とも受け取れますね。この事件をおおやけにし、「パンドラの箱」を開けさせたのは音楽学校なのです。

そもそも、原告生徒は、本訴に至ることを躊躇していました。仮処分の段階から、原告代理人は「原告は音楽学校の恥を社会に知らしめようとしているのではない。解決策があるはずである。」(H20.12.22 準備書面(1))と訴えています。

しかも、仮処分で音楽学校の主張は何度も退けられています。裁判所は音楽学校に和解を勧めていました。それにも関わらず、負けを認めず、あえてみずからの恥を知らしめるべく、本訴に突き進んでしまったのです。 →ポイント解説 3-補足.音楽学校は二度どころか何度も負けている

<裁判中の音楽学校の悪あがき>
また、本訴になったあとも、音楽学校は公開の範囲を小さくする努力をしませんでした。いや、正確に言うと、努力はしましたが見当はずれでした。

当初、音楽学校は公開を停止するよう申請しています(H21.12.16 公開停止申立書)が、法廷は公開が原則ですので、あっさり翌日に撤回しています。間抜けです。さらに、記録に書かれた生徒の氏名や住所を黒塗りにするよう申請し(H21.12.17 秘密保護のための閲覧等の制限申立書)、いったんは認められますが、あとで取り消されます。なぜかというと、音楽学校が生徒を証人として申請したからです。裁判所から、「証人として出るからには、住所はともかく氏名は黒塗りにできない」と言われてしまいました。(H22.2.1 秘密保護のための閲覧制限の変更)。自分で、証人を出すと言っているんだから、当然ですよね。

さて、ここで注目なのが、生徒を証人として申請したのは、原告側ではなく、音楽学校自身だということです。原告側は、原告生徒と同室だったαのみを申請する予定だったそうです。つまり、音楽学校が申請しなければ、α以外の12人の生徒は、法廷に立つことも、裁判所に記録として名前がはっきり残ることもなかったのです。

そこまでおおやけにしておきながら、音楽学校は生徒たちが証人に立つ日、保護者の付き添いと遮蔽措置を認めるよう申請しています(H22.1.26 付き添いおよび遮蔽措置についての上申書)。「誹謗中傷している者から、危害を加えられるおそれもある」からだそうです。なんだかひどくないですか? 誹謗中傷って、私たちファンのこと?

これに対し、原告側代理人は、そもそも遮蔽措置は被害者を守るためのものである、と前提の間違いを指摘。「傍聴人に対する冒涜」「舞台に立つことを拒絶した原告に対し、舞台に立つ予定である生徒達を特別扱いしろと主張するところに、本件における被告の態度が現れている」(同日 「付添い及び遮へいの措置についての上申書」に対する意見)と厳しく批判しています。もちろん、付き添いや遮蔽措置は裁判所には認められていません。

おおやけにしたいんだか、したくないんだか。証人13人の名前を明らかにし、記録上も名前を黒塗りにできず、宝塚のイメージをとことん壊し、そのうえで「誹謗中傷された」と言うのですから、確たる方針もなく悪あがきしたと言われても仕方ありません。

→3へ なぜ仮処分に従わなかったのでしょうか?

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